「会津若松市にある名勝・旧滝沢本陣。その奥に佇む遠州流庭園は、名石『夜泊石』で知られますが、実は木々の配置や季節ごとの生き様を知ることで、美しさが何倍にも深まる庭園です。今回は現役の樹木医・造園家の視点から、植物生理と造園学に基づいた一歩深い見どころを優しく解説します。

旧滝沢本陣のお庭

旧滝沢本陣

福島県の会津若松市。旧滝沢本陣です。ここは会津藩の本陣跡で、国の史跡に登録されています。主屋および座敷は、旧滝沢本陣横山家住宅として国の重要文化財として指定されています。敷地と建物は国の史跡に指定されています。

旧滝沢本陣
旧滝沢本陣

これが建物の内部です。横山家の住居として、屋内の半分が土間になっているなど、近世の農民住宅の特徴がよく残されています。

旧滝沢本陣

当時の生活がどのようなものか?想像が掻き立てられます。

旧滝沢本陣 当時の生活感が伝わる

一方でこんな痕も建物に残されています。

壮絶!戊辰戦争

生々しい弾丸の痕

銃弾の痕です。

鋭い刀の痕。壮絶な戦いが!

その様な戦闘の生々しい建物から外を眺めると、心が和む日本庭園があります。

旧滝沢本陣の遠州流庭園

遠州流庭園

会津三大庭園の御薬園(会津松平氏庭園)や可月亭庭園は、小堀遠州の弟子の目黒浄定によって作庭されたものです。「遠州流庭園」とされているこの庭園も会津藩のものであることから、目黒浄定またはその2代目以降が手掛けた可能性が考えられます。

軍事施設のお庭

このお庭は、命がけで戦う武士の心を和ませるためのお庭だったと思います。

旧滝沢本陣の遠州流庭園

これが旧滝沢本陣の遠州流庭園です。この庭園はいろいろな角度や場所から見れるような回遊式庭園ではなく、このポジションからの見れるお庭(座観式)になっています。藩主や白虎隊も見たかもしれない?最高の鑑賞ポジションです。

【回遊式庭園】
 人が歩く → 景色が変わる → また歩く → また景色が変わる
 (360度の変化を楽しむ)

【この庭園】
 人は動かない → 景色は変わらない → 1つの構図を鑑賞する
 (正面の“完成された一枚絵”を楽しむ)

松の果たす役割

・座敷から庭園を眺めたとき、最初に目に飛び込んでくるのが「松」です。 松は冬でも葉を落とさない常緑樹であり、庭園の「骨組み(主木)」の役割を果たします。直線的な建築物(本陣の建物)に対して、松の植物としての柔らかさを対比させることで、空間に心地よい緊張感と格式高さを生み出しています。

・ここは滝沢本陣という軍事施設です。そこでの空気感は非常に張り詰めたものだったと思います。しかし、お庭は違います。そこから見えるお庭は、先ず硬い石組ではなくやわらかい植物が目にはいるような設計にしたのではないかと思います。

・この松はもう1つ重要な役割を果たしています。「遠近法」を応用した配置を可能にしています。手前に力強い松を置き、その後ろに中程度の刈込をそして後ろの方に高木を配して、庭園が実際の敷地よりも深く、広く感じられるようになります。

この松は、非常にいい働きをしていますね。

亀出島と夜泊石

旧滝沢本陣の遠州流庭園

築山から出島が出ています。また、池には岩島が並んでいます。

石に苔が生えているのが、この庭にさらに趣を加えています。

亀出島

旧滝沢本陣の遠州流庭園

出島のアップです。これは、亀を表しています。亀島でない。亀出島です。これが庭全体の中心になります。

亀出島の左が亀の頭で亀頭席です。斜め上方突き出しています。
「亀頭石」は庭園全体の視線を一点に集める「主石(守護石)」の役割を果たしています。この石の角度ひとつで、庭全体に静かな緊張感と躍動感が生まれています。

夜泊石

旧滝沢本陣の遠州流庭園

亀出島の右(手前)には岩島が並んでいます。これは海に浮かぶ船ではないでしょうか?

金閣寺にもありますが、夜泊石だと思います。夜泊石(よどまりいし)とは池泉庭園において、数個の石を配置した石組で、仙薬財宝(不老不死の薬や財宝)があるとされる蓬莱山へ向かう舟で、夜に海で停泊している舟の姿を現している様子を表現したものです。この直線の石並びが、水面に心地よいリズム感を与えています。

となると、先程の亀島(出島)が不老不死の仙人が住むという「蓬莱山」という設定なのか?

時間が庭園を造る 植物の妙

作庭から数百年が経過した現在、この庭園の完成度をさらに高めている。植物の妙です。

サツキ・ツツジによる「刈込み」の造形

遠州流庭園では、石組と植物を完全に調和させるため、サツキやツツジを丸く、あるいは波のように低く刈り込みます。これにより、ゴツゴツとした石の硬さと、植物の柔らかい質感が一体となり、庭全体がひとつの彫刻作品のようになります。

苔とタマリュウの緑の

日陰になりやすい本陣の立地で苔とタマリュウがうまく育っています。庭の手前にタマリュウがあります。これが庭土を覆うことで、余計な雑音(土の露出)を消し去り、石組が多い庭をうまく調和しています。

お庭の遠近法

旧滝沢本陣の遠州流庭園

ここは藩主が出入りする勝手口みたいなところで、ここから鷹狩やいろんな用事で出入りしていたといわれています。アプローチの両側のは、石が並べられていますが。よく見ると、奥に行くほど大きな石が据えられています。

横から見るとこんな感じで、、

旧滝沢本陣の遠州流庭園

門に近づくほど石が大きくなっています。これにより、遠近法のような効果が生まれ、奥行きや庭全体の広がりを感じさせています。

通路の砂利と周りの苔の対比も魅力的です。

まとめ

  • 遠州流の「空間美」と「借景」: 限られた敷地を広く見せる洗練された構造です。
  • 「夜泊石」の物語性: 池に並ぶ石は、不老不死の仙人が住む島へ向かう「宝船」が夜間に停泊する姿を模しており、高い抽象美を誇ります。
  • 樹木の調和: 周辺の樹木が作る木陰が池の美しさを保ち、長い歴史を経た老樹と石組みが「生き物と不変の造形」の見事な調和(わびさび)を生み出しています。

一見静寂に包まれた庭園ですが、四季の樹木の営みと計算された石組みが融合した、今なお「生きている芸術」です。

(2024年12月に見学)

終わり

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