「失敗を恐れずに挑んでほしい」
その一言が、私たちの挑戦の始まりでした。 ご依頼いただいたのは、ご家族が大切に守ってこられた、深い思い入れのあるクスの大木の移植です。
大木の移植は極めて難易度が高く、時には命を脅かすリスクも伴います。しかし、「どうしてもこの木を残したい」というお客様の強い想いと、私たちへの信頼に応えるため、持てる技術のすべてを注ぎ込みました。
困難な状況下で、いかにして貴重なクスの命を未来へつないだのか。樹木医が挑んだ大木移植の記録をご紹介します。
根回しなし、不退転の覚悟で挑んだ大木の移植

兵庫県神戸市
樹木医として活動していると、時として教科書通りの手順が通用しない、過酷な現場に立ち会うことがあります。
先日ご依頼いただいたのは、あるお宅の庭で数十年の時を刻んできたクスノキの大木。お施主様にとって、それは単なる樹木ではありませんでした。 「私が生まれたとき、祖父が庭に植えてくれた木なんです。この木と一緒に、新しい家でも人生を歩んでいきたい。どうか、助けてくれませんか」
その言葉の重みに、私は深く襟を正しました。
突きつけられた「根回しなし」という難題
しかし、状況は極めて厳しいものでした。 本来、これほどの大木を移植するには、1〜2年前から根を切り整える「根回し」を行い、細根を増やして移植に備えるのが鉄則です。ところが今回は、土地の明け渡し期限が迫っており、事前の準備期間が一切取れないという、いわば「一発勝負」の直接移植を強いられることになったのです。
私は正直にお伝えしました。 「根回しができない以上、成功率は格段に下がります。最悪の結果になるリスクも覚悟しなければなりません」
それでも、お施主様の意志は揺るぎませんでした。 「たとえ枯れてしまったとしても、挑戦せずに見捨てることはしたくない。松井さんにすべてを託します」
その一言で、私の迷いは消えました。プロとして、この想いに応えないわけにはいきません。
命をつなぐ、現場での決断

兵庫県神戸市
クスノキの大木の移植当日。私はまるで外科手術に臨む執刀医のような緊張感の中にいました。
掘り取りの際は、特殊な掘削機械を使い、熟練の職人たちと息を合わせ、ミリ単位の慎重さでクレーンを操作しました。 切り口には即座に発根促進剤を塗り、幹には乾燥を防ぐ保護材を巻く。「今できる最善」をすべて現場で注ぎ込みました。
根からの吸水が期待できない分、少しでも葉からの蒸散を抑えるため、大胆な「強剪定」を施しました。クスだからできる技です。お施主様の大切な思い出の姿を変えるのは心苦しい作業ですが、これもすべて「成功のため」の決断です。

兵庫県神戸市
2. 命をつなぐ、植え付け現場の「真剣勝負」
移植当日。掘り起こした大木をクレーンで吊り上げ、新しい土地へと運び込みます。ここからが、この木の運命を決める2つ目の重要な「植え付け」の工程です。
「水ぎめ」に魂を込める
植え穴に木を下ろした後、ただ土を被せるだけではありません。私は「水ぎめ」という作業に全神経を集中させました。大量の水と棒を使い、土の奥深くにある隙間を完全に埋めていく作業です。 根回しをしていない根は、わずかな空気の隙間に触れるだけで乾燥し、死んでしまいます。ドロドロになった土の中に手を差し込み、根の隅々まで土が密着しているか確認しました。
少しの可能性を広げる土壌改良

根が弱っているからこそ、新しい住み処は「最高級の環境」でなければなりません。水はけを良くするパーライトや、根の再生を助ける特殊な活性剤を独自の配合で混入。さらに、クスノキが新しい根を伸ばしやすいよう、酸素を供給するための通気管を地下に配置しました。
巨体を支える「執念」の支柱

根回しをしていない木は、自ら地面を掴む力がまだありません。風でほんの数ミリ揺れただけで、生えかかったばかりの産毛のような細根がブチブチと切れてしまいます。私は、通常の1.5倍の強度を持たせた強固な支柱を組み上げ、クスノキの巨体を地中にガッチリと固定しました。
芽吹き、そして未来へ
新しい土地に植え付けた後も、私の心は休まりませんでした。 移植は「植えて終わり」ではありません。そこからが本当の戦いです。 「お水はこうやってあげてください」「今は肥料は控えてください」 お施主様と二人三脚で、まるで入院患者を見守るような感じでした。
そして、季節が巡った春のことです。 切り詰めた枝の先から、クスノキ特有の赤みを帯びた、力強い新芽が顔を出しました。
「松井さん、芽が出ましたよ!」
お施主様からの電話越しの声は、今でも忘れられません。

大木の移植を終えて、私が伝えたいこと
今回の大木の移植は、学問的な正解からいえば、決して推奨されるものではありませんでした。 しかし、樹木医の役割とは、データだけで「無理です」と断ることではないはずです。
「お施主様の想いを汲み取り、木が持つ生命力の限界まで、技術で寄り添うこと」
たとえ状況が不利であっても、守りたい木がある。そんな時は、どうか諦める前に私に相談してください。私たちは技術と情熱、そして一筋の可能性を信じて、全力で向き合います。時として情熱は技術を上回ることもある、と思っています。
大木の移植・木の治療などのご相談・お問い合わせ
このクスの大木の移植は、兵庫県神戸市でしたが、
大木の移植や樹木の治療の相談は、
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