鎌倉・報国寺(竹寺)の竹の庭と枯山水を歩く|樹木医が見た魅力
鎌倉の「竹寺」として世界中から観光客が訪れる名刹、報国寺。一歩足を踏み入れると広がる見事な竹林は、日々の喧騒を忘れさせてくれる圧倒的な美しさを持っています。
しかし、報国寺の魅力は美しい竹林だけではありません。境内をプロの目で観察すると、長い歴史を生き抜いてきた巨木や、自然の生命力を感じさせる素晴らしい木々が随所に息づいています。
本記事では、樹木医の視点から、報国寺(竹寺)の見どころを徹底解説!一般的な観光ガイドとは一味違う、木々の息吹や自然の奥深さを楽しむためのポイントをご紹介します。
報国寺
鎌倉幕府が滅亡(1333年)した翌年の1334年(建武元年)に創建されたと伝えられています。
神奈川県鎌倉市にある報国寺(ほうこくじ)は、臨済宗建長寺派の寺院で、境内に広がる見事な竹林から「竹の寺」として広く知られています。
今日は、報国寺の竹林を紹介します。

報国寺の山門です。
参道のお庭
この山門をくぐると、

参道沿いに、苔の庭が展開します。石にも苔がむしていい感じですね。
白い砂で表現している流れが通りから離れていくことで、長細いスペースですが、窮屈に感じないようにしています。
左の大きな灯篭に注目です。山門から入ってくる人にお辞儀をしているようです。「いらっしゃい!」
少し参道を歩くと、
如意輪観音(にょいりんかんのん)

観音様ですね。右手を頬に当て、右足を左膝の上に乗せて物思いに耽るような独特のポーズは思惟(しゆい)の姿勢と言います。
「どうすれば人々を苦しみから救い、悟りを開かせることができるか」を究極まで突き詰めて考えている、慈悲深い瞑想の姿です。
背後にそびえる堂々とした巨木の幹、手前の見事な枝ぶりのサツキの仕立て、そして足元を流れるような枯山水の白砂と苔のコントラストが素晴らしい。

御本堂です。この御本堂の裏に回ります。
「枯山水庭園」本堂前に広がる「静寂」と、背景を彩る「借景の樹木」

そこには枯山水庭園があります。
この庭園は、白砂の後ろに背の低い植栽を使い、後ろに行くにしたがって背の高い植栽をもってきています。そして後ろの森と一体化させることでダイナミックな庭園風景を作っています。「借景」のお手本です。
一方で、周囲のエネルギーは、真ん中にある石組みに集中させています。砂の中に配置された石組は、荒波に耐える不動の精神を示している。石組みの周りの砂紋もきっちりと乱れのないものとなっています。臨済宗(禅宗)の寺院らしいお庭です。
圧倒的な「竹の庭」(孟宗竹の美)
いよいよ「竹の庭」です。

庭園の主役は、約2,000本の孟宗竹(モウソウチク)です。
まっすぐに伸びる竹の「垂直の線」が、緊張感と清涼感を生み出しています。
足元は、このようにきれいな苔でおおわれています。

「竹の庭」の美しさは、上部の緑だけでなく、足元の美しい苔との対比で成り立っています
本当に大変な!「竹の庭」のコントロール
竹林の中に一歩入ると、非常に美しく整えられていることに気づかされます。竹同士の間隔が適切に保たれ、古い竹や余分な地下茎の管理、枯れ葉の清掃が行き届いています。光の量も計算して管理しています。密集していながらも暗くなりすぎず、心地よい木漏れ日(光と影のコントラスト)が地面に届くよう設計しているようです。
竹林(約2,000本)がこれほど美しく維持されている裏には、並大抵ではない手入れがあります。

タケノコがありました。このタケノコも将来残す本数や間隔を考えて、掘ったり残したりしなければなりません。写真に見えている藁も重要な管理事項です。
- 泥跳ねから苔を守る: 雨が降った際、泥が跳ね返って苔の隙間に入り込むと、苔が呼吸できずに傷んでしまいます。ワラがクッションとなることで、雨粒の衝撃を和らげ、泥跳ねを防ぎます
- タケノコ掘り・管理の足場: 春に次々と生えてくるタケノコの間引き(選別)を行う際、職人さんが頻繁に庭に立ち入る必要があります。その際、土を踏み固めて竹の根や苔を傷めないよう、養生(足場保護)として敷かれている側面もあります。
- 景観 竹の庭の景観としての藁で苔と対比
藁のには、以上のような意味があります。
タケノコは地下茎を伝って通路からも出てきます。通路を確保し歩きやすさを維持するには、通路に地下茎の侵入を許してはなりません。竹の地下茎(ちかけい)で驚くほど広く、強く根を張ります。たとえ、タケノコを除去しても、地下茎が残っていれば、それは次第に成長し歩行しづらくなってきます。歩きやすい通路は、職人さんの努力の結果です。
また、苔の維持にも次々落ちてくる竹の葉を掃除しなければならないなど大変な作業です。私たちには見えないところで、庭師さんやそのほかのスタッフの皆様のおかげで、「竹の庭」は維持され続けています。
休耕庵で一服|フレーミング効果で生命のダイナミズム
竹の庭を抜けると、「休耕庵」という茶席があります。抹茶をいただいています。


このように額縁の竹の庭を鑑賞できます。
そこには天井と柱、そして床によって四角く切り取られた「緑の絶景」が広がっています。
人間の視野から余計な雑音を削ぎ落とす、日本庭園の「額縁(フレーミング)効果」。視界が限定されることで、私たちの意識は否応なしに、切り取られた額縁の中に集中させられる。完全に固定された人工のフレームがあるからこそ、その中で呼吸し、生きる植物のダイナミズムが、より一層愛おしく思います。
樹木医・松井裕之の一言
この報国寺の「竹の庭」は竹の庭単独では十分に成り立たないと思います。先に紹介した「枯山水」とセットで「竹の庭」は一層に良いものとなっています。
この2つは、対照的です。
| 「枯山水庭園」 | 「竹の庭」 |
| 静 | 動 |
| 白(白砂) | 緑(竹) |
| 水平方向 | 垂直方向 |
| 枯 | 湿気 |
このように対象になっています。
「竹の庭」を見る前に、凛とした「枯山水」を見ることで素晴らしい経験ができるのです。
そして、忘れてはいけないのが、この2つのお庭、あと参道の庭を管理し維持することの大変さです。庭師やスタッフの方々のおかげです。
樹木医 松井裕之