重森三玲が手掛けた志度寺「無染庭」と曲水式庭園|樹木医の現地観察記録
香川県さぬき市に佇む四国八八ヶ所第86番札所「志度寺」。ここには、昭和の名匠・重森三玲氏が海女伝説(玉取姫伝説)をモチーフに復元した枯山水庭園「無染庭」と、平安の面影を残す四国最古級の「曲水式庭園」が存在します。
本記事では、樹木医・造園の視点から、力強い石組みと植物(植栽)が織りなす空間美や、現地で絶対に見ておきたい鑑賞ポイントを分かりやすく解説します。志度寺を訪れる前の予習や、庭園鑑賞のガイドとしてぜひお役立てください。
志度寺の歴史
志度寺は真言宗のお寺で、創建が1400年前の飛鳥時代という大変歴史のあるお寺です。「しどでら」と読みます。
推古天皇のいる625年、海人族の凡園子という人が志度の浦に漂着した檜の霊木で十一面観音像を刻み、お堂を建立したのが始まりといわれています。
その後、681年に藤原鎌足の子・藤原不比等が妻のお墓を建立し「死度道場」と名付けたそうです。
さらに、693年には藤原不比等の子・藤原房前が行基とともにこの地を訪れ堂宇を建立し伽藍を拡張。そして寺号を「志度寺」と改称し、学問の道場として栄えたそうです。

最初に目に入るのは、豪快な屋根が特徴の山門、仁王門です。この仁王門は高松藩初代藩主の松平頼重が寄進したもので、国の重要文化財に指定されています。脇間には仁王像があり、中央部には扉を備えた三棟造で、東大寺の転害門や法隆寺の東大門と同じ形式ということです。

本堂をお参りした後、大師堂を参拝しました。
このお堂は江戸時代前期に建てられたもので、ご本尊は弘法大師です。高松藩主の生駒正俊が寄進したものといわれています。徳川家の家紋が堂々とあります。


龍と獅子の彫刻
これは木鼻の彫刻。龍と獅子です。
獅子に比べてアンバランスなぐらい大きい龍です。豪快ですね。
海女の玉取り伝説|「無染庭」のテーマ伝説
能の演目『海士』の舞台となった背景
これは「海女の玉取伝説」を伝える史跡です。「海士の墓」が約20基並んでいます。この伝説を知ることは無染庭を鑑賞するのに重要です。

「海女の玉取伝説」を伝える史跡
これは「海女の玉取り伝説」を伝える古跡です。この「海女の玉取り伝説」というのは、、
その昔、唐に嫁いだ藤原鎌足の息女が、亡き父の供養物として数々の宝物を兄・藤原不比等に届けようとしました。しかし、志度の浦で宝物を積んだ船が嵐に巻き込まれ、さらに宝物・面向不背の玉が龍神に奪われてしました。そこで、不比等は宝物の玉を取り戻すため、身分を隠して志度の地にやってきました。
そして、漁師の娘であった海女と恋に落ち、不比等と海女の間に房前が生まれました。その後、親子3人で幸せに暮らしていました。しかし、不比等が志度の地に来た理由を知った海女は、愛する夫のために玉を取り戻すことを決意しました。
そして龍神が棲む龍宮へ潜っていきました。
海女は龍神と戦い玉を取り返すことができました。しかし、傷ついた海女は亡くなってしまいました。そして不比等は現・志度寺の境内に海女のお墓を建てて菩提を弔いました。
時は過ぎ、藤原家を継いで大臣まで出世した藤原房前は、父・不比等から母のことを聞かされて、房前は行基を連れて志度を訪れ、1000基の石塔を建立。
今は志度寺の境内には房前が建立した1000基の石塔のうち、約20基が現存しています。
無染庭|重森三玲が作庭した石庭
無染庭はその志度寺の中にあるお庭です。「むぜんてい」と読みます。
志度寺には2つお庭があって、南側にある室町時代に作られた曲水式庭園と書院の間にある枯山水庭園の無染庭があります。

白砂と斬新な石組みが表現する龍宮城と大海原
この竜安寺の石庭のようお庭は、無染庭と言います。無染庭は曲水式庭園の復旧に伴い重森三玲氏という作庭家によって作庭されました。志度寺に伝わる伝説で、謡曲や浄瑠璃の題目としても名高い「海女の玉取り」を題材に、瀬戸内海の情景を七個の石と苔むした岩、そして庭一面に敷き詰めた白砂で表現している。

「海女の玉取り」の伝説を題材に重森三玲が作庭
「海女の玉取り」の伝説を題材に、瀬戸内海の情景を七個の石と苔むした岩、そして庭一面に敷き詰めた白砂で表現している。

近くで見るとこのような感じで、瀬戸内海の様子を描いています。景石は瀬戸内海の島々。白い砂は海を表しています。横長は母が命を落とした龍神が棲む龍宮。島手前の石は竜宮に向かう船を表現しているのだろか?

横長は母が命を落とした龍神が棲む龍宮。島手前の石は竜宮に向かう船を表現しているのだろか?
先ほど7つの石をつかっているといいましたが、5つしかありません。正面からみたら気が付かないのです。


あと2つ出てきました。奇数は縁起が良いものとされています。
志度寺「無染庭(むぜんてい)」の魅力と作庭意図
「無染庭」は、昭和を代表する作庭家・重森三玲(しげもりみれい)氏の指導のもと、その意志を継いだ人々によって完成された昭和の名庭のひとつです。
「無染」に込められた意味
「無染(むぜん)」とは、仏教用語で「世俗の汚れや迷いに染まらない、清浄な心」を意味します。 庭園全体に敷き詰められた一面の白砂と、規則的かつダイナミックに配置された苔の島々、そして力強い立石(たていし)が、雑念を削ぎ落とした静寂の空間を作り出しています。
無染庭の見どころ
- 白砂と苔の対比(コントラスト) 白砂が描く大海原のような「静」の広がりに対し、青々とした苔の島が鮮やかなコントラストを生み出します。
- 重森流の力強い石組み 立石の鋭いラインと苔の柔らかさが組み合わさることで、平面的な庭園でありながら立体感と緊張感が漂う空間構成となっています。
- 極限まで削ぎ落とされた植物構成(苔と背景の生垣・樹木) 主役は白砂と「海女の玉取り伝説」を模した7つの組石(島石)です。そのため、庭園内部には華やかな花木を多用せず、島石の延長としての「苔(コケ)」が主たるグラウンドカバーとして使われています。
- 空間を際立たせる背後の緑(フレーム効果) 白砂の広がり(瀬戸内海を表現)をくっきりと見せるため、背景には低い生垣や常緑樹(サツキやマツ、スギなど)が配置されています。背後の森のような植栽は、庭園という劇場に意識をフォーカスする役割を果たしています。囲むように白砂の「白」と樹木の「深い緑」の対比(コントラスト)が計算されています。
曲水式庭園|重森三玲が復元した室町時代の面影
無染庭とあわせて鑑賞したいのが、寺内の書院前に広がる「曲水式庭園(きょくすいしきていえん)」です
3つしか現存例のないという貴重な曲水式庭園。室町時代に作られた。荒廃していたこのお庭を重森三玲が改修し石組を付け加えた。

重森三玲が改修
このように、現在はまた荒れている。貴重な曲水式庭園なのに残念なことです。
らせん状に組まれた石組や築山は志度寺の本尊である十一面観音菩薩の浄土「補陀洛山」を表しているという。

「曲水式庭園」の特徴と魅力
曲水式庭園の特徴
曲水式庭園とは、水をくねらせて流す小川(曲水)を配し、かつて流水の宴(水上に酒杯を浮かべて歌を詠む儀式)などが行われた庭園形式に由来します。志度寺の曲水式庭園は室町時代の作庭手法を強く残しており、南北朝〜室町期の庭園様式を知るうえで非常に貴重な文化財です。
- 自然石を活かした護岸石組 池や水路の護岸には、あえて過度な加工を施さず、自然の造形美を活かした石組みが配置されています。
- 深山幽谷を感じさせる樹木の配置 曲水の流れを包み込むように、モミジ(カエデ)やモチノキ、ツバキなどの常緑・落葉樹が配されています。木漏れ日が水面や苔に落ちる景観は、室町時代の禅的で静寂な雰囲気を留めています。
- 自然のなだらかな傾斜と苔むす地表 無染庭の人工的・造形的な白砂とは対照的に、曲水庭園は水流の曲線に沿った自然な苔の起伏(野筋・ノスジ)が特徴的です。
3. 樹木医 松井裕之の鑑賞ポイントとまとめ
鑑賞ポイント
庭園の「骨組み」が石や地形だとすれば、そこに「命と表情」を与えるのが樹木や苔などの役割です。
志度寺の庭園を巡る際は、ぜひ以下のポイントにも注目してみてください。
- 苔(コケ)の状態と光の入り方 無染庭における苔の維持管理は非常に繊細です。日陰と日向のバランス、そして適度な湿度が保たれることで、あの絨毯のような美しい緑が維持されています。季節や時間帯によって光の当たり方が変わり、表情が変化する点も見どころです。
- 庭木の手入れと剪定の美 石組みの力強さを引き立てるため、周りの樹木は過剰に主張しすぎないよう絶妙なバランスで枝抜き・剪定が施されています。背景の空間づくりと樹木の密度の関係性に注目すると、作庭の意図がより深く見えてきます。
まとめ:志度寺を訪れたら「静寂の庭」で心を整える時間を
志度寺といえば歴史ある本堂や仁王門、五重塔などが有名ですが、一歩奥へ足を踏み入れると、そこには洗練された庭園空間が広がっています。
無染庭の「無駄を削ぎ落とした白砂と緑のコントラスト」と、曲水式庭園の「水の流れと苔むす樹木のナチュラルな情景」。この対照的な2つの表情を演出するのが「植物(植栽)の役割」となっています。
- 昭和のモダンな禅の美を感じる「無染庭」
- 室町時代の幽玄な歴史を伝える「曲水式庭園」
四国巡礼の旅の途中や、讃岐の歴史・庭園巡りの際には、ぜひじっくりと腰を据えて、ふたつの庭園が織りなす静かな時間に身を置いてみてはいかがでしょうか。
志度寺参拝とあわせて楽しみたい「門前うどん」
庭園鑑賞で静寂な時間を過ごしたあとは、ぜひ讃岐うどんも味わってみてください。志度寺の周辺(さぬき市志度エリア)には、地元で愛される名店が点在しています。参拝とセットで巡るのがおすすめです。

庭園巡り一覧👇
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